感情の未分化が異常な事件を招く
そして、昨今異常な犯罪が頻発しております。事件を起こした当人についての周辺の印象は、「普通の、大人しい人に見えましたが・・・」という声が多いようです。ある日突然、異常者になったように報道されがちです。
卑近な例から説明致しますと、子育てをする場合に親が家事に追われて手が離せない時に「うちの子は静かにテレビを見ていて大人しくしてくれて、育てやすいです」なんてことは、大変なことに繋がります。専門家は「感情の分化」と言っておりますが、我が侭を言ったり、叱られたり、笑ったり、泣いたり、と言うことで感情が細やかになります。
例えば、兄弟げんかをします。兄は弟をたたいて弟は泣き出す。兄は「少しやり過ぎたかなあ」と感じるし、弟は「くやしい」と感じる訳です。親から兄は叱られる。弟は、叱られる兄を見て「くやしさ」が薄れます。そうした連続で、親にとっては落ち着く暇がない訳ですが、子供には豊かな感情が育まれているのです。
また近所の子供達が集まると、仲良しの時もあれば、けんかをする時もあります。そうしたことを繰り返して、他の子供と上手に遊ぶということができるようになります。感情が豊かになるばかりではなく、将来人間関係を上手に築く基礎づくりをするのです。なるべく一人で遊ばせないで、他の子供と交流する場を提供してやりたいですね。
先ほどの「育てやすい」ような子供の感情はどうかと言いますと、余り分化されているとは言えません。親の都合の良いように育っているように思ったら、とんでもない勘違いです。仮に感情が未分化のままででしたら、すぐに「切れやすい」し、「切れると怖い」人間になってしまいます。人格形成に歪みが生じ大変なことになってしまいます。韓国や中国でも近年「ひきこもり」が問題になっていますが、その原因は共通しているところがあります。
養老孟司氏(解剖学者)は「昔の子供たちが普通に経験していた作業を奪ってしまい、脳科学的には前頭葉機能の低下を招いて、子供たちの‘キレる’原因を作っている。このことは、科学的にもすでに分かっている」と指摘しています。(文芸春秋8月号)